寺泊産日本酒プロジェクト Story Book – 2022 –

  1. 「寺泊産日本酒プロジェクト」とは
    • 寺泊産のモノ・人にこだわった酒造りを通じて 寺泊の魅力を再発見し、寺泊を盛り上げていこう
    • てらどまり若者会議~波音(はね)~
  2. 野積杜氏の郷、長岡市寺泊野積地区
    • かつて寺泊にあった酒蔵
    • 野積杜氏のはじまり
    • 当時の酒造りの様子
    • 野積杜氏の記録
    • 野積杜氏関係者へのインタビュー
  3. 原料「寺泊山田産コシヒカリ」の米造り
    • 寺泊山田地区の田んぼ
    • すじまき (4月下旬)
    • 田植え (5月上旬~中旬)
    • 溝切り (6月中旬~下旬)
    • 草取り (8月下旬~9月上旬)
    • 稲刈り (8月下旬~9月中旬)
    • 籾摺り (9月下旬)
    • 足立さん一家へのインタビュー
  4. 酒造り
  5. プロジェクトにご協力いただいた方々
    • 寺泊山田産コシヒカリの農家さん
    • 野積杜氏の後継者
    • 「てらどまり 波音」が買える地元寺泊のお店
    • 題字:きもち伝わる筆文字屋さん
  6. 参加メンバーの声
  7. お酒の特徴

1.「寺泊産日本酒プロジェクト」とは

寺泊産のモノ・人にこだわった酒造りを通じて
寺泊の魅力を再発見し、寺泊を盛り上げていこう

 長岡市寺泊は、「清酒王国にいがた」の礎を築いた「野積杜氏」の郷です。かつては酒蔵もあり200名超の杜氏を輩出してきましたが、時代の変遷とともにその人数も減っていき、また人々の記憶からも次第に薄れてきており、その存在すら知らない人が多いという現状があります。寺泊が全国に誇る魅力をこのまま風化させてはいけない!という想いから、2022年2月に「てらどまり若者会議~波音(はね)~」から始まったプロジェクトです。
 野積杜氏に敬意を表し、「米」「水」「酵母」「人」と原料はできるだけ寺泊のモノ・人にこだわり、寺泊産のお酒を造ります。初年度は「米」と「人」に焦点をあて、波音メンバーが米造りに携わりました。来年度以降は寺泊地域の方にもお手伝いいただき、また 「水」も「酵母」も寺泊産のものを使用し、いずれは「オール寺泊産」の日本酒造りを目指していきます。本プロジェクトを通じて寺泊の魅力を再発見し、寺泊地域はもちろん県内外へ発信していくことで寺泊を盛り上げていきたいです。

プロジェクトリーダー  和田 幸永

てらどまり若者会議~波音(はね)~

 寺泊には、海、山、川などの豊かな自然があります。私たちはそんな寺泊が好きで寺泊を盛り上げたいという想いで集まりました。寺泊地域の若者の意見を地域や行政に発信し、地域を盛り上げていく土壌をつくります。活動を通して若者の交流が深まり、寺泊に住みたい、住み続けたいと思える地域になることを目指し、メンバーそれぞれが地域に対しての想いを話しながら、自分たちがやりたいこと、できることを形にしています。寺泊に関わりのある人、関わりたい人も大歓迎です。寺泊を盛り上げたい、地域活動に参加したいという仲間をお待ちしています。

代表  木村 勝一

2.野積杜氏の郷、長岡市寺泊野積地区

 江戸時代から現代に至るまで全国各地で活躍した新潟県出身の酒造技能集団「越後杜氏」、このうち長岡市寺泊野積地区を出身地とする集団を「野積杜氏」と称します。最も多い時で杜氏200名、従業員2,000名を超えたと言われ、その勤務地は関東・中部地方を中心に北海道から四国に至る広範囲にまで及びました。

かつて寺泊にあった酒蔵

 寺泊における酒造りの歴史は古く江戸時代中期に始まり、最盛期には12家で酒造りが行われていました。そのうちのひとつ、野積地区内川の星家はかつての大庄屋であり、その醸造高は日本一の酒どころである兵庫県灘地区の大手酒蔵に匹敵する550石(=年間製造量一升瓶約55,000本)と、当時としては日本五指の中に数えられる醸造家でした。

野積杜氏のはじまり

 日本海に面した野積地区は背後に山が近接するため耕地が狭く、かねてより漁業が盛んでした。ところが、天候に大きく左右され冬期の半年間は漁ができず生活は貧しかったため、生活のためには出稼ぎが必要でした。これを憂いた星家の当主・星清五郎は、漁業ができなくなる冬季中の村民の生計を救済するために、新潟県頸城地方より杜氏を招き指導を受け酒造業を始めました。また、自ら350石の廻船「明神丸」を所有し、遠くは北海道にまで赴き商いを行いました。
 やがて技術を磨いた4名の杜氏が星家を巣立ち出稼ぎを始めたのを皮切りに、酒男たちの全国への出稼ぎが始まりました。これが野積杜氏の始まりです。なお、野積地区内川には酒造りの神として松尾さま(大山咋命=おおやまくいのみこと、本社京都)が建立され、野積杜氏の守り神として現在も信仰されています。

当時の酒造りの様子

野積杜氏の記録

野積杜氏関係者①:力石武司さん

 野積地区中浜にお住まいの力石武司さんは、野積杜氏として約60年にわたりご活躍されました。当時の寺泊中学校野積分校を卒業後、夏季は萱屋根葺き職人として地元で働き、冬季は酒造りのために出稼ぎ。さらに退職されるまで県内外の蔵に赴き、数々の賞を受賞してこられました。
 「蔵人として初めての年に、酒粕を出した後の桶を洗う作業中に桶の中で酔っぱらってしまい慌てて引き上げられた。酒造りは厳冬期に行われるが当時の履物等は藁で編んだ草履で、ひび割れやあかぎれを友として作業していた。テレビはもちろん無く、ラジオはあったが蔵の上位の人の意のままで、まれに村の学校などに廻ってくる映画を見に眠い目をこすりながら出かけるくらいが娯楽だった」と、当時の大変貴重な話をお伺いすることができました。

略歴

ープロジェクトへの想いー
私が杜氏になったときは野積地区だけで約100名の杜氏がいたが、時代の流れに合わせて出稼ぎがなくなってしまったことで今はいなくなった。それは寂しいが、プロジェクトはぜひ頑張ってほしい。

野積杜氏関係者②:河合潤一さん

 野積地区中浜にお住まいの河合潤一さん。その父・高明氏は野積杜氏として長年新潟県湯沢町の(株)白瀧酒造に勤務されていました。高校卒業後に酒造りの道に入り23歳で杜氏に就任。卓越した技能の持ち主として1984年に越後杜氏としては初表彰となる「現代の名工(厚生労働大臣表彰)」に選ばれました。

 長男の潤一氏は長年銀行員としてご活躍され、退職後は寺泊町史への資料提供など、野積杜氏史の編纂に尽力されています。もし潤一氏が高明氏の跡を継いでいたら河合家としては四代目となるはずでしたが、出稼ぎで長期間留守にする家庭の大変さの中で育ってきたこともあり、後を継ぐことを断念。ちょうどその頃を境に、野積から出稼ぎに出る動きが無くなってきたと話します。
 現在(2022年)は長岡新聞寺泊支局長として寺泊の魅力について自ら取材し、広く発信されています。本プロジェクトでは、野積杜氏に関わる貴重な資料を多数ご提供いただき、稲刈り作業にもご参加いただきました。

ープロジェクトへの想いー
60年振りくらいに白瀧の前掛けをして稲刈り作業をしました。野積杜氏の歴史が風化していくのはやはり寂しい。このプロジェクトが「潤滑油」として地域活性化に繋がってもらえたら嬉しいです。

3.原料「寺泊山田産コシヒカリ」の米造り

 お酒の主原料であるお米は寺泊山田地区産「コシヒカリBL」を使用。山田地区で兼業農家を営む足立照久氏にご協力いただき、お米をご提供いただく代わりに波音メンバーで米造り作業のお手伝いをしました。各作業の様子は足立さんのYouTubeチャンネルで公開されています。ぜひご覧ください。

寺泊山田地区の田んぼ

 山田地区の田んぼは寺泊地域のなかでも周囲を山に囲まれた中山間地にあり、水の大部分を沢水や湧き水に依存している、地域唯一の「天水田」地帯です。周囲の山々からは常時湧き水が溢れ田んぼや畑用水として利用されています。田んぼ周辺にはクロサンショウウオの卵塊やゲンジボタルなど、綺麗な環境に棲む様々な生き物たちが見られます。
 一部の湧水は田んぼ内にも見られます。そのような箇所は湧水の流れで深くえぐられ陥没してしまっているため、田植え機や稲刈り機のタイヤがとられ場合によっては埋まってしまい動けなくなってしまうことも。そうなると膨大な手間と時間を費やしてトラクター等で引っ張り上げるしかありません。そのような箇所が至る所にあるのです。

すじまき (4月下旬)

 すじまきとは、稲の種(種籾)を筋状にまく作業のことで米造りの最初の大事な工程です。米造りは田植えからというイメージがある人も多いかと思いますが、全てはここから始まります。
 すじまき機で種籾をまいて土を被せ、その箱をビニールハウス内で数週間苗を育てます。この一連の作業、特に苗箱をビニールハウスに運ぶのがとにかく重労働!足立さんらは普段4人で、箱数で約700枚もすじまきしているとのこと。農家の方や作業を経験された方なら想像できると思いますが、4人でこの量はさすがにキツイ!そのため、今回は大勢の波音メンバーがお手伝いが参加したことで足立さんらも「とにかく助かった!」と喜んでおられました。

田植え (5月上旬~中旬)

 まず、苗箱をビニールハウスから各田んぼまで運びます。水を含んでずっしりと重い苗箱を持って田んぼ脇の道路から法面を何度も昇り降りしてリレー形式で畦(あぜ)に並べていきます。その後、田植え機に苗を積み込み作業開始。途中、何度も苗を供給しながらどんどん苗が植えられていきます。タイヤが湧水箇所のぬかるみに埋まり動けなくなるというアクシデントもありつつも作業は順調に進行し、ご厚意で田植え機に乗せてもらったりと貴重な体験をさせていただきました。
 機械の入れない田んぼの四隅やうまく植えられていない欠損部には直接田んぼに入って手作業で補植(据え直し)していきます。ドロドロの田んぼに足をとられ転ばないようにバランスをとりながら一歩一歩進み、腰を曲げて一ヵ所ずつ丁寧に補植していきます。時には膝~太腿部分まで埋まってしまうこともあり、慣れない作業でヘトヘトになりながらも、最後は達成感で自然と笑顔が溢れていました。

溝切り (6月中旬~下旬)

 田植え後の6~7月にかけて、苗たちがしっかり根を張り大きく育つように田んぼの水を排水して地を固める「中干し」を行います。このとき、スムーズに排水を行うために田んぼに溝を切って排水口に繋げる作業を「溝切り」といいます。あまりクローズアップされませんが、実は米の品質や収量を左右する最も重要な管理作業であり、米造り工程の中で最もしんどい作業でもあります!
 作業自体は、田んぼ内をエンジン式の手押し溝切機を押し歩きながら一定間隔に溝を切っていくという単純なものですが、その実態は足立さん曰く「地獄の作業です!(笑)」。梅雨時のジメジメ蒸し暑い中汗だくで心身ともにヘトヘトになりながら、時にはぬかるみに長靴をとられ靴下になりながらも、歯を食いしばってなんとかやり遂げることができました!

草取り (8月下旬~9月上旬)

 稲刈り前の田んぼには、稲穂に混じってノビエやクサネム等の雑草が生えています。ノビエは生育面積を年々と増やしていき、そうすると稲の収穫量や品質がどんどん落ちていきます。クサネムは育つと茎部分が硬くなり、稲刈り機(コンバイン)の刃を痛めてしまいます。また、そのタネの大きさがちょうど玄米と同じくらいなのでうまく選別できず、そのままの状態で検査を受けると等級を下げる原因となります。そのため、溝切り作業と同様にあまりクローズアップされませんが、品質良い米造りのためにはとても重要な作業なのです。
 作業内容はとにかくシンプルです。田んぼに入ってひたすら雑草を抜く!草刈鎌を片手に稲穂の海原に分け入り、時折の猛暑やアブと闘いながらも、ただひたすら雑草を抜いていきます!メンバーは滝汗をかきながら、その表情には達成感と、続く稲刈りでの良質な米の収穫への期待感で満ち溢れていました。

稲刈り (8月下旬~9月中旬)

 「稲刈りは天候との闘い!」。濡れた状態だと稲が倒れてうまく刈り取りできなかったり、稲刈り機(コンバイン)の中に稲が貼り付いて脱穀ができず詰まりの原因に。さらに田んぼ内のぬかるみ部に機械のタイヤが埋まってしまい脱出不能になることも。いずれの場合も大幅なタイムロスとなってしまいます。おまけに9月は台風襲来の季節。貴重な晴れ間を逃すまい!と急ピッチで作業が進められました!
 作業は主にコンバインで一気に稲を刈り取っていきます。田んぼの四隅やぬかるんで機械の入れない箇所は手で稲を刈り取ります。田んぼ内の湧水箇所では広範囲がぬかるんだ状態となっていて歩くだけでも一苦労!それでも猛暑の中、身体中を汗・泥まみれになりながら一生懸命に手刈りを行いました。「自分たちが育てたモノを自分たちで収穫する」、作業を終えたメンバーの表情にはその喜びと達成感で満ち溢れていました!

籾摺り (9月下旬)

 籾摺り(もみすり)とは、稲刈りの際にコンバインで脱穀された「籾」から籾殻を取り除いて「玄米」にする作業のことです。乾燥させた籾を籾摺り機に通し、内部の2本のローラーの摩擦により籾殻と玄米を選別します。その後ふるいにかけ、砕米やくず米、雑草の種子、ゴミなどを選別し、品質の良い玄米を米袋に詰めて出荷します。
 我々は米袋の紐を縛って運搬する作業のお手伝い。紐の結び方にも決まりがあり、さらに一袋30kgの米袋を7~8段積み上げていくという、坦々と続く地味な作業ですが想像以上に重労働です!それでも皆であれこれと談笑しながらこなしていけたので、楽しく作業を進めることができました。

米造りを終えて、足立さん一家へのインタビュー

ーはじめて「寺泊産日本酒プロジェクト」の話を聞いてどう思いましたか?

足立さん:最初に聞いたのは、春田の忙しい時期でした。こっちは仕事でやっていて遊びでやっているんじゃない、人の出入りが多くなるのは大変そうで、めんどくさい話だなと正直に思いました。それでも酒米でなくコシヒカリでもお酒ができるの!?と興味はありました。

ー実際に作業を進めていく中で、当初の想いはから変化はありましたか?

足立さん:大勢の若者から作業を手伝ってもらい、とても助かったと同時に、「寺泊のお米で日本酒を造りたい」という真剣な想いが伝わりました。元気な皆さんのパワーで忙しい時期でもスムーズに作業できたことは良かったです。ほとんどの方が農作業未経験者で「実際に仕事ができるだろうか?」と正直不安な気持ちだったが、皆さんが本当に熱心で一生懸命な姿に心打たれ、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

ー初年度を振り返っての想いをお聞かせください。

足立さん:年々高齢化していく農業で、これからどうしていこうか悩んでいるところでした。波音の皆さんからお手伝いいただいて有難かったのと、皆さんが楽しんで作業する姿に励まされました。大勢の若い方たちと知り合えて楽しく仕事をさせていただきました。決して楽な仕事ではなく、むしろ泥まみれの苦しい作業や暑い中の農作業は本当に大変だったと思いますが、「楽しかった」「達成感があって良かった」ととても前向きな感想を仰ってくださりびっくりしました。

ー波音メンバーへ。

足立さん:今回は「すじまき」から「籾摺り」と実際にお米が出来るところをお手伝いいただきましたが、田んぼのぬかるみに砂を入れるなど、田んぼ仕事の大変な部分も体験してもらえたら、より米づくりの大変さがわかります。(笑)
美味しいお酒が出来ると良いですね!

4.酒造り

 現在寺泊地域には酒蔵がないので、寺泊港町出身の荻原亮輔氏が杜氏を務める上越市の(株)武蔵野酒造にて製造を行いました。
 日本酒は「糖化」と「アルコール発酵」を同時に行う「並行複発酵」という世界でも類を見ない高度な発酵技術で造られます。本プロジェクトのお酒も、ここで紹介する工程にて醸されました。

① 原料処理 (洗米~蒸かし)
米を手早く洗い、水に浸します。翌朝蒸気で蒸し上げます。

② 麹造り1日目
麹は酒造りで酒質を決定する最も重要なプロセスです。蒸し米を麹室に運び入れ麹菌を振りかけ、麹カビが生えるよう保温・保湿して1日置きます

③ 麹造り2日目
高温で乾燥した棚と呼ばれる別室に移し米表面を乾かします。これにより麹カビがより湿度の高い米の中心に向かって菌糸を伸ばします。この突きハゼと呼ばれる米麹が豊かな酵素力を生み上質な酒を醸します。

④ 酒母造り
酒母は本仕込みに備えて酵母を大量に培養するために造られます。蒸し米、米麹、酵母、水を入れ約2週間程度かけて酵母を増殖させます。

⑤ 醪(もろみ)造り
仕込みタンクに酒母を入れ新たに蒸し米、米麹、水を加えます。この作業を4日間に3回繰り返して米麹が持つ酵素力がデンプンを糖化させる作業と酵母が糖をアルコールに変える発酵をバランス良く並行して行います。

⑥ 搾り
発酵が終了したら昔ながらの舟と呼ばれる搾り機を使って醪を搾ります。この工程で清酒と酒粕に分けられ、酒造りが終了します。

5.プロジェクトにご協力いただいた方々

寺泊山田産コシヒカリの農家さん

足立茂久商店
11代目 足立照久氏

 1974年、寺泊山田出身。兼業農家を営む傍ら、江戸時代に創業し山田地区で今もなお続くただ一軒の篩(ふるい)屋「足立茂久商店」の11代目として、フルイや裏ごし、わっぱや蒸籠などの曲げ物を一つ一つ手作業で製造・修理を行っている。また、新潟県内で手作り製品を製作・販売するさまざまな業種が集う団体「新潟県クラフトマンクラブ」の会長を務め、県内のモノづくり技術の研鑽・普及に尽力されている。なお、足立氏は個人のYouTubeチャンネルにて曲げ物製造や作品展示、米造りの様子等をわかりやすく紹介されている。

ープロジェクトへの想いー
普段家族だけの農作業は黙々と仕事をするだけで会話が少なくなりがちだが、波音の皆さんとの作業はいろいろな話ができてとても楽しく、辛い作業でも声を掛け合い乗り越えられました。とても良い経験でした。

〇 野積杜氏の後継者

(株)武蔵野酒造
杜氏 荻原亮輔氏

 1982年、寺泊港町出身。野積杜氏である曾祖父の影響を受けて酒造りに興味をもち、当時全国で唯一の醸造科のある新潟県立吉川高校醸造科や東京農業大学で酒造りの基礎知識から応用までを学ぶ。卒業後は新潟県内の酒造会社数社に就職し、越後杜氏の技を習得。現在は上越市の(株)武蔵野酒造にて、伝統的な技と思想を重んじながらも「日本酒の魅力を広めていきたい」「みんなが楽めるようなお酒を造りたい」と日々様々な手法を凝らして酒造りを行っている。

ープロジェクトへの想いー
はじめてプロジェクトの話を聞いた時「面白そう!」という想いが第一印象。自分が生まれ育った寺泊の良いところをたくさん詰め込んだお酒を造ってみたい!と思いました。

〇 「てらどまり 波音」が買える地元寺泊のお店

(株)石崎商店
5代目当主 石崎哲郎氏

 1983年、寺泊坂井町出身。大学卒業後、他企業や酒蔵での修行を経たことで、造り手と飲み手の橋渡しができる商いの大切さ、文化としての日本酒の素晴らしさを実感し、2017年に家業「(株)石崎商店」を継承、5代目当主。創業100余年で、地元で長年愛される寺泊の名物「いしざきのもち大福」や「醤油おこわ」の製造・販売や、県内酒造より信頼を得て問屋を介さず直接仕入れを行う地酒たちの販売および地域発送を行っている。

ープロジェクトに対する想いー
地元の人の他に観光客も数多くご来店されるので「地元寺泊産のお酒ですよ!」と胸を張ってお勧めできるのは大きな喜びです。一人でも多くの方に寺泊の魅力を伝えていきたいです!

〇 題字:きもち伝わる筆文字屋さん

一般社団法人伝筆®️協会
講師 倉井智子氏

1983年、新潟市西蒲区巻出身。寺泊一里塚にある寺院「養泉寺」の坊守。御朱印帳を持って参詣の方に毎月の法語を書くために「伝筆Ⓡ(つてふで)」を習い始める。筆を使って言葉を表現することで沢山の方が喜んでくれ元気になることを感じ、2020年10月に伝筆Ⓡ協会認定講師となる。自坊やカルチャースクールで伝筆を教えたり、寺泊の塩のパッケージやお店の看板の文字デザインを提供している

ープロジェクトに対する想いー
「寺泊産のお米で酒造りしています。ラベルの文字お願いできませんか?」とお話をいただき、面白いプロジェクトにワクワクしました。「てらどまり波音」のお酒を飲んだ方が、幸せなきもちになりますように。

6.参加メンバーの声

木村さん
 この日本酒プロジェクトはメンバーからの発案で始まりました。メンバー各々からの積極的な想いがカタチになり、1つのお酒になるストーリーを私自身も楽しみにしています。
 草取りは、ふさふさの稲穂がどんどん刈り取られる姿が面白かったです。田んぼ内のぬかるみ部ではトラブルが多発するので、その点でも足立さんの土地が如何に難しい場所なのかがよく分かりました。

和田さん
 寺泊産の酒造りを通じ野積杜氏の存在や農家さんの現状、寺泊の魅力を広く知ってもらいたいです。幼少より育んでくれた地元への感謝と恩返しの気持ちを込めて寺泊を盛上げていきます。
 田植えでは、自分の運転でタイヤが埋まり田んぼの中で動けなくなってしまったが、トラクターでなんとか救出していただいた。酷い時は重機を借りたこともあるそうで、天水田特有の苦労を痛感した。
 田植えの前段階から作業できて勉強になりました。何往復も苗箱を運んで並べる作業は大変でしたが、その分皆さんとコミュニケーションをとりながら協力して作業できたので楽しかったです。

年友さん
 作業はとても楽しく自然を満喫させていただきました!農業の機械化が進んでいること、それに伴った苦悩を知ることができました。人手不足等の悩みも沢山あり、米価が低いと実感しました。
 田植えは小学生のころにやったきりで今回も四苦八苦でした!当日は雨に打たれながらの手植えでしたが、それでも負けじと淡々と作業をこなす農家さんの偉大さを感じられる体験でした。

伊藤さん
 実際にやってみるととにかく過酷! こういった過酷な作業があることも知らずにお米を食べていた自分を恥じると共に、農家さんへの感謝の気持ちが一層強くなりました。

三浦さん
 初めての溝切り、長靴が脱げて靴下で田んぼ作業を行うハプニングもあったが、それも含めて面白い体験だった。田んぼの中ってあったかくて不思議な感覚があるな、ということに気づいた!

辰田さん
 暑かった中での作業で大変だったが、足立さんらとたくさんコミュニケーションできるようになり良かった。草取りを経験してからは、他の田んぼの手入れ具合が気になるようになった。

三上さん
 当日は雨が降り、自然を相手に作物を育てるということは身体的に大変な事だと感じたが、作業を終わった時の達成感はとても清々しく、もっとやりたいと思えるほどだった。

松本さん
 ぬかるんだ所は歩くことも難しかったり、泥に埋まった足を引き抜くことができなかったりと大変でしたが、そういったハプニングも楽しく、少年のような気持ちで作業できて面白かったです。

能登さん
 作業は力仕事であることはもちろん、機械のペースに合わせて先読みして段取りよく作業することが大変でした。袋に詰められた玄米を見て「これがお酒になるんだな」と嬉しくなりました。

小林さん
 実家が農家の私も初体験でした。とても清々しく、作業後の達成感が気持ちよかった。皆さんとのおしゃべりも楽しみの一つでした。足立さんご家族の喜ぶ姿が嬉しくなりました。

7.お酒の特徴

■ 銘柄名 ■ てらどまり 波音 ~the 1st vintage~

私たちの団体名「波音(はね)」には、「はね:鳥のように羽ばたく活躍を」の他に「なみおと:波のように小さい活動から始まりやがて大きなうねりになってほしい」という意味があります。「一人でも多くの方に寺泊を知ってもらいたい!」という想いを込めて「てらどまり 波音」と命名しました。

■ 原料米 ■ 寺泊山田産一等米コシヒカリ

寺泊地域で唯一の「天水田」で収穫された「コシヒカリBL」を使用。山田地区で兼業農家を営む足立照久氏にご協力いただき、今年度は波音メンバーも米造り作業のお手伝いに参加しました。

■ 精米歩合 ■ 90% 、コイン精米

精米歩合90%とは、玄米の状態から外側の10%を削り取った状態のことをいいます。これは私たちが普段食べている白飯と同じ条件です。精米作業は波音メンバーがコイン精米機を利用して行いました。

■ 製造 ■ (株) 武蔵野酒造 (上越市)

現在寺泊には酒蔵がありません。そのため製造は寺泊港町出身の荻原亮輔氏が杜氏を務める(株)武蔵野酒造にて行いました。荻原氏は曾祖父が「野積杜氏」であり、その技と志を受け継いだ後継者のひとりです。

■ 題字 ■ きもち伝わる筆文字屋 倉井智子氏 (寺泊一里塚)

「波音」の文字を使い寺泊の夕日を、青と緑の一直線は水平線の青と田んぼの地平線の緑を、見た方が幸せになるグリーンフラッシュを、それぞれ想いを込めて書に表現していただきました。

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【参考図書・文献・ホームページ】

  • 酒造りの今昔と越後の酒男, 中村豊次郎, 1981年8月
  • 野積小学校百年誌, 寺泊町立野積小学校 創立百周年記念実行委員会,1982年11月
  • 寺泊町史 資料編4(民族・文化財), 寺泊町, 1988年3月
  • 広報 観光てらどまり 平成10年7月号 No.36, 新潟県三島郡寺泊町観光協会, 1998年7月
  • 杜氏 千年の知恵, 高浜春男, 2003年2月
  • 酒造り回想記, 力石武司, 2011年4月
  • 長岡市商工部工業振興課 ホームページ「TECH NAGAOKA[テックナガオカ]/足立茂久商店」